ぴぃこ、息を吸う

26歳会社を辞めた私の転職活動日記

民主主義を実感できなかった私たち

18歳以上に選挙権が引き下げる議論が起こっている。

ニュースでは決まり切ったことのように、「若い人にはこの権利の重みを云々」とか「絶対に無駄にして欲しくない云々」と解説委員は決まり切ったことしか言わない。

今の若い子たちに従来にはありがたかった権利を「ありがたいだろー。使え!」というのはお仕着せでしかない気がする。従来システムの民主主義を守るより、新しい価値観を想像していいはずじゃないか?

私がこう思うのは、大学2年生のとき受けたある授業を思い出すからだ。

軍事独裁政権でもいいんじゃね?

ラテンアメリカ*1現代史の授業を受けていた時の話だ。

その授業では、リアクションペーパー(以下リアペ)と呼ばれる授業の感想を学生が書いて、それで先生が成績を評価していた。

ある日、前週のリアペを読んで、先生が少しご立腹だった。前の週の授業のテーマは「ラテンアメリカの軍事政権*2」。

なぜなら、「治安や景気が良いなら、独裁政権でも構わない」趣旨の意見が多かったから。先生はやや厳しい口調で、

「あなたたち、軍事政権下ではどのような状況になるか、理解しているんですか!」

と言っていた。


確かに、軍事独裁政権が市民にどんな非道な仕打ちをしていたか、先生は映像資料なども交えて説明してくれた。独裁容認論を書いた学生たちは、ちゃんと先生の話を聞いていなかったと言える。

私も同年代の同じクラスに独裁を肯定的に見る意見があると知って、日本大丈夫か?と思った。普段温厚な先生も怒るほどだから、独裁容認論者は一人や二人じゃなかったんだろう。

だがそれを差し引いても、頭ごなしに彼ら彼女らの意見に怒ることはできない。私も、戦後民主主義の恩恵を被っていながら、今の日本社会を否定的にみてしまっているから。

逆らわなければパラダイス?

第一に、先生の説明では当事者意識が湧かなかったことがある。どれだけ独裁が理不尽な弾圧をするのか、といってもそれは反体制派だから弾圧されるという話になってしまうのだ。

独裁にも関わらず新自由主義経済を推進するという、奇妙な形態をとっていたラテンアメリカの軍事政権。

アメリカ法人も工場を置くなど、チリやアルゼンチンは、今とは比べ物にならないほど経済活動は活発で景気が良かった。

ちょっとした政権批判でも捕まるから、みんな戦々恐々として、悪さしない。治安も良くなるわけだ。

乱暴に言うと、「政府に従っていれば弾圧も受けず安全に暮らせるのに、わざわざ反旗を翻す方がバカなんじゃないの?」って感想を持つ学生もいて不思議じゃない。

ラテンアメリカ諸国は階級社会があるから、政策の恩恵に預かれるのは、あくまで一部の富裕層だけだ。だがそういう前提でもっても、教室にいる学生たちは理解できなかったのだろう。東京の名の知れた私立大学に通う私たちは、日本全体でみると恵まれたエリートだ。自分が虐げられる、まして政府に弾圧されるなんて想像できない。

自由な私たちは幸せか?

独裁もアリじゃね?

こういう意見が出てきたもう一つの背景に、民主主義を標榜するいまの日本の現状があまりに厳しいこともある。

日本は一応民主主義国家で、自由にモノが言える(思想犯で超法規的な投獄はないという意味で)。職業選択の自由憲法でも保証されている。出自で差別ももちろん禁止されている。

でも、私たちは幸せじゃない。

私が入学したのは、2009年。リーマンショック直後で、景気は冷えに冷え切っていた。終身雇用なんてとっくの昔に崩壊。労働者に占める非正規雇用の割合は増え続け、正社員の門戸も狭い。外国人による犯罪の増加が叫ばれ、今ほどではないがテロの危険性も現実味を帯びてきていた。

公教育の質は低下していて、高いレベルの教育が受けたければ裕福な家に生まれるしかない。そのため結局出自で幸不幸が決まる。いい大学へ行っても正社員の倍率は厳しい。結婚もしにくくなった。女性は働いても、家庭にいても、出産しても文句を言われる。子供たちも変質者に狙われるのが怖くて、外でのびのび遊ばせられない。

一方で、戦前の日本では考えられなかった新しい生き方もしやすくなったとも言える。しかし、自由によって多くの人の人生がよりリスキーになったのは確かだ。

これが自由の結果として受け入れるべきか?民主主義の国に生きてて、本当に私たちは本当に幸せなのか?

この質問に、なんの疑問も抱かずに首を縦に振れない。

自由にモノが言える環境は、個人の幸せに繋がるものではない、と当時の独裁容認派の学生たちは感じていたんだと思う。

景気も良くて、治安もいい。所属する階級に見合った仕事をし、政府に決められた通りの言動をしていれば刑務所にも入らず生活も安泰な独裁国家。自由にモノが言えて、どういう思想、生き方をしても刑務所行きにはならないけど、治安が悪くて経済も不安定。

単純すぎるけど、人間は結構単純に考えるもの。若者が前者を夢見てしまうのも無理はない。

価値の再構築

今の、特に高学歴な日本の若者は弾圧や迫害への意識が希薄である。

一定数の若者にとって、自由な、民主主義の元での人生がハードモードなゲームにしか映らない。

この2つから、民主主義の良さを実感できていない人が、この国には少なからずいる。これは単に、その人たちが自由な社会で生きる能力がないから、で片付けてはいけない。むしろ、民主主義の欠陥が、力や金を持たない人、特に戦後レジーム色々と疑問を持つ若者層に見えてしまっている。

ここで、「あなたたちの平和な日常は戦後民主主義によって云々」みたいなことを言っても無駄だ。当人が実感していない恩恵を語っても通じない。

だからこそ、独裁or民主主義の時代遅れな構図を捨てて、新しい価値観が台頭する必要がある。

独裁容認論を書いた学生も「これなら、信じてもいいかな!」と言える説得力ある価値が、同世代から出てこないと、本当に民主主義がオワコン化して独裁の時代がやってきてしまう。




*1メキシコから南のラテン語系言語(スペイン語、ポルトガル語)を公用語とする北中南米カリブの国々の総称。南米カリブにあっても、英語圏のジャマイカ、ガイアナなどは含まれない。(ちなみにメキシコは北米なので中南米には含まれない)


*21970〜80年代にかけて、ラテンアメリカ各地で発足した。冷戦中、共産主義中南米に広がるのを恐れたアメリカの支援を受け、経済的には新自由主義を掲げる。チリのピノチェト政権などが有名。